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2006年08月06日

羽織の紐 「京風ロハスな暮らし」連載第13回 (8/6)

                                           ジャーナリスト 木下明美

ウチに性染色体がXXの私と30数年共生しているXYがいます。
何でも、少年時代、もうパジャマを着る時代なのに寝間着を着せられて大きくなったので、
宿屋の寝間着を着て寝ても裾が乱れることはありません。

働き盛りの頃は仕事柄もちろん洋服でしたが、ここ10年ほど前から在宅時の「くつろ着」もお出かけ時も
和服を着るようになりました。一度水泳が出来るようになったとか、自転車に乗れるようになったら、
長いブランクがあってもその技能は保持されるのに似て、XYはろくろく姿見も見ずに手早く着ます。

男物の羽織の紐は乳(ち)に直付けのものと、S字状のカンという小さな金具で乳に引っかけるのとが
ありますが、ウチのXYはカンを嫌がります。XYに言わせると、あれはよく外れて、
片方だけで紐がぶら下がっているのに気付かないと、間が抜けて見えるというのです。
 
でも大抵の人は紐の結び方を知らないので、予め結んであるのを買ってきてそれをカンで引っかけるのです。
でもXYはカンを使わず、特殊な金具をどこかで手に入れて来てそれを使っています。
 
しかしXYの好みはなんと言っても直付けの紐をその都度自分で結ぶことです。
男の紐の結び方は何通りか有るようですが、一旦結べば解けることはないけれど、房の方を引っ張れば
ワンタッチで解けるようです。
 
愛用していた直付けの紐の輪が遂に切れました。恐らく明治末か大正初めから代々使ってきた物で
しょうから、もう捨てても好いわけですが、そこは良く言えば「もったいながり」、有り体に言えばしつこい
「昭和生まれの幕末男」で、客間の襖を張り替えたり、脇息(時代劇の殿様が肘付いているあれ)の
外張りが破れて中綿がはみ出していたのを張り替えたりする腕を持っているのです。
 
それで幕末男は南座向かいの和装小物老舗へ持って行きました。そしたら若主人が、
「物が良いので直せたら未だ使えます。職人に出してみます。」
と言って預かってくれたそうです。そして十日ほどして直ってきましたが、直した後が判らないほどの
見事な仕上げで、手仕事に関心のある幕末男は、

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画像2.jpg

「玄人とはこういうものか。」
「まだこんな職人がいるのか。」
とすっかり満足しています。
某井澤屋さんは新品を売るだけでなく、こんな幕末男の無理な注文も聞いてくれるのです。

そう言えば、昭和生まれの幕末男がこんなのを唸ってたのを思い出しました。
 
 貴男と私は羽織の紐よ しっかり結んで胸に抱く

Writing: owadajunko

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