2008年03月16日
途上国の宝をビジネスを通じて形に 「マザーハウス」山口絵里子さん
山口絵里子さんの話を最初に私がお聞きしたのは2006年のことでした。20代半ばの女性が、アジアで最も貧しい国、バングラディッシュに住み、特産品であるジュートからバッグを製造するという、質の高いものを作り日本で販売することで、現地に仕事と収入をもたらす道を作ろうという、驚異的なチャレンジの物語でした。そんな困難なことを、情熱と驚異的な集中力とで成し遂げてしまった彼女の物語は、すでに多くの人の感動を呼んでいます。
最近は講演やテレビ、雑誌などでも頻繁に取り上げられる山口さんですが、改めてその物語をご紹介いたします。
※詳しくは『ロハスビジネス』P136をごらんください。起業型のお1人として紹介しています。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022731974/owadajunko-22/ref=nosim/
◆アジアで最も貧しい国、バングラディッシュ
バングラディッシュの特産物であるジュートという植物を素材にしたバッグを販売する「マザーハウス」。山口絵里子さんという26歳の女性が2006年に始めたばかりの会社の主力商品です。すでに、そのバッグは百貨店や専門店でも販売されています。
山口さんは大学4年の春、インターンとして国際機関でインターンをしました。いつか国際機関で開発援助に携わる仕事をしたいという憧れを抱いてのワシントン生活でした。しかし、支援先の途上国の現状を尋ねても、スタッフは誰一人として行ったことがない、知らないという。現場を知らずして、問題を解決することはできないはず、と思った山口さんは、ワシントンから日本へ戻ると、すぐに、アジアで最貧国と言われるバングラデシュに行きました。空港に着くなり、いままで体験したことのない異様な臭いが鼻をつき、空港をでると、物乞いの群衆に取り囲まれます。初めての強烈な体験でした。
そして、大学を卒業してすぐに、山口さんはバングラデシュの大学院に進学することを決意。大学に通いながら、昼間は日本の商社で仕事をするという生活が始まりました。
◆ジュートバッグとの出会い
バングラデシュでの日々で感じたことは、援助や寄付が必ずしも求める人々の手に届いていないということ。しだいに、「もっと健全で、見える形で、持続的な新しい協力の仕方があれば」という思いが強くなっていきます。
そんなある日、山口さんはダッカの街で一つのバッグと出会います。お店の奥のショーケースに入っていたバッグの独特な風合いに強く惹かれました。素材はジュートでした。
調べてみると、ジュートは通常の植物の5〜6倍の二酸化炭素を光合成の過程で吸収し、廃棄時には有毒なガスを一切出さず、粉砕すれば肥料としても使用できる、環境負荷の少ない素材で、バングラディッシュは世界一のジュート生産国でした。
このジュートを使って、おしゃれで質の高いバッグを作ろう!とひらめいたのです。
◆フェアトレードの精神を形に
バッグの素材となるジュートやバッグを作ってくれる工場を探しました。実際に日本人が満足するクオリティのものを作るのはとても大変だったといいます。何度も何度も作り直しをしなければならず、また毎日にようにトラブルが起き、やっと160個のバッグが完成しました。
大学院を卒業し、帰国後すぐに会社を作り、販売先を開拓し、160個のバッグは完売。
06年12月には新たな女性起業家の誕生を支援する「フジサンケイ女性起業家支援プロジェクト2006」(産経新聞社、フジサンケイビジネスアイ、サンケイリビング新聞社主催、大和証券グループ共催)で1,161人の応募者から最優秀賞に選ばれました。
そして、07年は、バッグの専門家の協力も得て、質・デザイン共に進化したジュートバッグを作り上げました。また、念願の直営店も08年8月21日に、台東区入谷にオープンしました。
フェアトレードという言葉をご存知でしょうか。途上国の貧困状態にある人々に寄付ではなく、収入が得られる機会を提供しようというものです。衣料品やコーヒーなど、途上国で作られるものの多くは、作物の生産者や加工をしている人に正当な対価が支払われず、フェア(公正)ではない取引がまだまだ多いのが現状です。欧米のカジュアルウエアやシューズメーカーなど、途上国の労働者を不当に安い賃金で働かせている、人権を侵害していると、人権保護団体などから訴えられ、不買運動が起きたりもしました。
「マザーハウス」の取り組みの精神はまさにフェアトレード。途上国の特徴ある原料と労働力とで製品をつくり、先進国で販売する仕組みを、短期間で作り上げました。自立支援の教育機関の設立に協力するなど、社会活動(ソーシャルアクション)にも取り組んでいます。山口さんのチャレンジはまだ始まったばかりです。
彼女のようなスーパーウーマンは稀有だと思います。話を聞けば聞くほど、彼女は特別だと思ってしまいます。でも、私たちでも自分のフィールドで、自分が心痛める社会の問題を改善する取り組みを行うことは可能です。社会の問題は山積しています。ささやかかもしれませんが、その人が出会った問題に、その人なりにかかわることはできます。そうした市民の小さな取組の積み重ねが、より良い社会の実現につながっていく、と私は信じています。
Writing: owadajunko