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2008年05月06日

環境と健康を守ろうと、生産者、消費者をつないで30年 「大地を守る会」

◆事業と運動の両立を目指して

全国各地の約2,500の生産者と、8万人の消費者をつなぎ、安心して食べられる農産物、畜産物、水産物、加工食品などを広く提供しているのが「株式会社大地」が運営する「大地宅配」事業です。1977年に、株式会社という形態で法人化され、宅配事業が始まりました。併せて運動体としての「大地を守る会」も両輪として、発足以来継続されています。

「ちゃんとした人生を全うしたい。後ろ指さされず、自立して誇り高く生きていきたい。
生活も大事。生活をするためには事業が必要だ。」と、共同購入および宅配事業を始めたと代表の藤田さんはいいます。

扱っているものは有機野菜から無添加食品、環境に配慮した雑貨まで、同社の安全基準をクリアした約3,500品目が毎週会員に届けられています。年間売上は124億3,715万円(2006年3月期)にのぼっています。

同社がユニークなのは、活動を始めた最初から事業と運動を両立させていることです。運動面では、最近では「100万人のキャンドルナイト」や、「フードマイレージキャンペーン」が有名です。今でこそ、企業が社会貢献活動や社会・環境問題をテーマとしたキャンペーンを展開したり、社会問題を解決するために事業を起こすことはめずらしいことではなくなりましたが、30年前にそれを始めたのは新しいモデルを創ろうという社会実験に等しかったと思います。

また、誰からも規制されることなく、より自由に活動ができるよう、株主を募り、株式会社として運営をしてきたといいます。株主は約22,000人。生産者、加工品メーカー、社員、顧客などステークホルダーが、日本の第一次産業を、環境と健康を守るという同社のミッションに共感し、その実現のために出資したのです。

しかも、年に一回、毎年2月に生産者と消費者が集う交流会が開かれ、1,000~2000人が参加しています。信頼と安心がさらに広がるように、生産者と消費者、都市と農村、日本と世界をつなぎ、“顔の見える関係”を作り続けているのです。

◆共同購入から始まった日本の自然食品流通の歴史

この30年というのは、国内で減農薬・減化学肥料で作られた野菜をはじめ、安心・安全な食品・農産物の流通の歴史でもあります。

その流れを最初に作ったのが大地を守る会でした。77年、農薬や化学肥料を減らした野菜を食べたい、そういう野菜を作る生産者を応援したい。しかし、既存の流通ルートには価格の問題などで乗せることができないので、自分たちで共同購入を始めました。「生活クラブ」なども安心・安全な食品を共同購入しようと始まった活動でした。

その後、80年代になって宅配産業が成長期を迎え、農産物も宅配便に載せて届けるという「らでぃっしゅぼーや」など農産物の宅配事業が広がっていきました。専門店「ナチュラルハウス」が表参道に開店したのは82年のことでした。

90年代には、環境ホルモンや地球環境問題など、食を巡る新たな問題が浮上。無添加食品を全国で販売する「アニュー」などもこの時期に顧客(店舗数)が急増しています。

そして2000年に入ってから、大手食品メーカーの偽装や、中国産食品の汚染など、さらに問題は拡大・深刻化し、生産・製造履歴(トレーサビリティ)への消費者の関心が高まってきました。食品を買うときは“裏側”(原材料)をチェックしよう、国産のものをなるべく買おうという行動も広まってきました。それにつれて大手食品スーパーなど一般流通でも、店内に無農薬野菜や無添加食品コーナーや、惣菜コーナーを設けるなど変化してきています。

◆商品安全基準とその見直し

さて、同社にとって環境と健康に配慮した、安心で安全な商品をいかに選ぶか、ということが根幹です。取り扱う商品の品質をいかに担保しているのでしょうか。当初から、まずは生産者に会い、生産現場に行き、生産工程を目で確かめて、信頼できる生産者と取引を行うという姿勢で扱う商品を決めてきました。

後年、1999年には「大地を守る会有機農産物等生産基準」を決め、2000年には「大地の基準 こだわりのものさし」(商品取扱い基準)という文章で選定基準を公表しました。必ずしも有機JASの認定を受けていないものでも、同社の基準をクリアしていれば扱います。

また、加工品について、例えばだしに使用されているたんぱく加水分解や、酵母エキスは使用していいのかとか、米国でマーガリンへの使用が禁止されたトランス脂肪酸についてどうするのかなど、時代に合わせ、都度メーカーと相談しながら、減らしたり、使用を中止したりしてきているといいます。

ただし、たとえ無農薬、無添加でも、生産者やメーカーの人が信頼できない人である場合も、取引はしないということになっているそうです。商品そのもの、そして人柄も問われているのです。

◆キャンドルナイトがこれだけ広がった理由

同社の運動で最も成功したものは「100万人のキャンドルナイト」でしょう。これが、大地を守る会が始めた活動で事務局を務めていることを知らない人も多いかもしれません。このキャンペーンへの参加者は100万人を優に超え、去年は700万人、今年はイベント登録数で昨年の倍、ライトダウン6万か所、700万人を超えたと環境省から発表されています。

なぜ、キャンドルナイトはこれだけ広まったのでしょうか?「たまには明かりを消してスローな夜を」というコピーも共感を得た理由だと思います。

藤田さんは、若い人たちと大いに議論したそうです。キャンペーンの目的が自衛隊の派兵を止めさせたいとか、原発反対であったとしても、ストレートにそう言っては運動は広がりません。「○○のために我慢しなさい。」とか、「○○すべき」といった“啓蒙主義”(上から何かを変えてあげようという考え方)では広がりません、と意見され、ささやかだけど自分で自己決定したことや、世界や地球とつながっていくことを柔らかい表現(文章や写真など)で伝える方法が選ばれました。呼びかけ人を大勢にし、各人の態度を31文字で表現してもらい、インターネットで公表するなど、インターネットの活用も大きな効果があったといいます。

「自分仕立ての運動。100万通りのキャンドルナイトでこれだけ運動が広がりました。」と藤田さん。また、メディアにキャンドルナイトの記事が掲載されることもしばしばで、その際に「事務局大地の会」と掲載され、ホームページへのアクセスがあり、宅配を申し込む人も少なくないといいます。運動に共感し、同社の事業を利用しようという経路です。

◆これからも国内の一次産業を支えて

「大地を守る会」は今後どこを目指しているのでしょうか。
「一部上場するとか、大きくするとかではなく、経済成長と同程度のゆるやかな発展を続け、継続することを目標としてきた。」といいます。そして、今後は宅配を中心としつつも、和食レストランや若い女性向けのカフェや店舗など、新しい業態にもチャンレンジし、販売チャネルを多様化し、組織を持続させていきたいという考えです。

そして何よりも重視し力を入れていくことは、これまでと変わらず、国内の一次産業を守ることであり、環境や健康を守ることであることは言うまでもありません。
食品の国内自給率が39%であるのは低いのか、死守していると見るべきか。消費者が輸入の安いものを買わなければいい。自分が買うときに原料や製造工程を調べれば良い。安さだけではない、他の価値にも目を向ける消費者が増えるよう、今後も情報の提供、運動に力を入れていく決意です。

(2007年6月、会長の藤田和芳さんにお話をうかがいました)

Writing: owadajunko

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