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2009年11月18日

農家、土壌、着る人の健康を考える  ―オーガニックコットンの草分け「アバンティ」―

◆ 2008年、毎日ファッション大賞を受賞

「コットンは農産物。その原点に帰ろうということで今年から長野で綿を植えることにしたんです。」と、オーガニックコットン製品を製造販売するアバンティ(本社・東京都新宿区)の渡邊智恵子社長は言う。
同社は91年、米国のオーガニックコットンの生地輸入を皮切りに、オーガニックコットンの原綿の輸入から製糸、生地、商品までを一貫して製造供給する事業を行ってきた。

98年にはオリジナルブランド「プリスティン」をスタートし、銀座松屋に直営コーナーをオープンした。 2002年にはパリの「メゾンエオブジェ」出展を開始し、04年には、パリの展示会「プルミエール・ビジョン」に初出展。以来、同社のオーガニックコットン生地は世界NO1の品質と評価を得るようになり、各国のファッションブランドで採用されるようになった。 国内外の取引先は約150社にのぼり、ベビー、子供服、女性服や下着、タオル類などまで約200アイテムを扱う。

千駄ヶ谷駅近くの直営店をはじめ、阪急百貨店うめだ本店、伊勢丹新宿店、銀座松屋など百貨店を中心に7店の直営店を展開し、商品取り扱い店舗は国内20、海外9となっている。売上げは10億円(2008年7月期)で、3割が直営店、7割が糸、生地、製品の卸売り販売という内訳だ。

そして、18年にわたるオーガニックコットンの普及への取組みが認められ、2008年、「第26回毎日ファッション大賞」を受賞した。ファッションデザイナー以外で同賞を受賞したのは渡邊さんが初めてだという。

◆ テキサスの有機綿農家を訪問

渡辺さんとオーガニックコットンとの出会いは、91年に遡る。知り合いからオーガニックコットンの生地を輸入してほしいと頼まれ、米テキサス州の農家を訪問したことがきっかけだ。広大な農地で、農薬を使わずに手間暇かけて有機農法に取り組んでいるファーマーの姿に感動。「太陽のもとで輝く清らかなオーガニックコットン畑を目の当たりにし、大自然に抱かれながら心のすみずみまで開放されていく幸せを実感しました。この瞬間に、世の中にオーガニックコットンを広めると決意したんです」。

現在では取引先も幅広い。「ポール・スミス」、「バーバリー」といった海外の高級ブランドから、「無地良品」や「45rpm」など日本ブランドへの生地の供給。また、家具工房の「オークヴィレッジ」にはマイ箸の袋を、CWニコルのライフスタイルブランド「アファンの森」にはTシャツをOEM生産している。

◆ オーガニックコットンを広める

ところで、通常の綿花はかなりの農薬を使用していることをご存知だろうか。地球上の耕地面積の 約2.5%にすぎないコットン畑に、全世界で使われている殺虫剤の約16%、農薬全体の約10%が使用されているというデータもある。食用の農産物よりはるかに多い農薬使用量だ。また、働く人の健康や環境の汚染も甚大だと指摘されている。「オーガニックコットンの生産量は世界の原綿生産量の1%にも満たないほど少ないものです。せめてこの生産量を10%にしたい。きれいな地球を子ども達に残してあげたい。」

そこで、渡邊さんは製品を製造・販売するだけでなく、オーガニックコットンを普及させるために認証づくりと、啓発キャンペーンにも取り組んできた。93年にNPO法人日本オーガニックコットン協会を設立し、2000年からは同団体の副理事長も務めている。

95年からは隔年ごとに9人、世界で活躍するアーティストの協賛による「アーティストTシャツ」づくりを始めた。すでに80人、ジョルジェット・ジウジアーロ、安西 水丸、日比野克彦、アラン・チャン、千住 博など多彩な顔ぶれのアーティストが参加している。これらのTシャツの展示・即売会は毎年各地で開かれている。7月4・5日には、横浜で開かれた「グリーンEXPO」でも展示・即売会が行われた。80枚のTシャツが一堂に展示されるのは圧巻で、しかも、80種類のデザインはそれぞれ個性的で楽しい。

◆ 尊敬する経営者はイヴォン・シュイナード

7月27日、東京で「パタゴニア」の創業者であるイヴォン・シュイナードの講演会が開かれた。同社ではすでに1996年から綿製品を全てオーガニックコットンに切り替えている。日本の起業家の間でも絶大な人気を誇る経営者だけあって250人を超える参加者で会場は熱気にあふれていた。渡邊さんも会場にかけつけた。そのイヴォンの講演で特に印象に残った言葉が「パタゴニアの株主は地球である。この地球にとって良い判断か否か、これがパタゴニアの基準である」という言葉だったという。

アバンティでは2008年から日本で販売されているパタゴニアのTシャツを製造している。そのタグには「プロデュースbyアバンティ」と入っている。取引先をリスペクトするパタゴニアの姿勢にも脱帽だ。
アバンティは、長野県小諸市に土地を確保している。2年後をメドに本社を移す計画だという。そして、今年から小諸と上田で綿花の栽培を始めた。雑草との戦いに現地スタッフは悪戦苦闘しているが、製品作りの原点は農にあることをスタッフ自らが体得することが、思いのこもった質の高い製品作りにつながるとの信念だ。

◆ グリーン・ファッションの時代

最近、「エシカルファッション」という言葉をしばしば耳にする。倫理的とファッションとは結びつきにくいが、フェアトレードなど一次生産者の労働状況や、オーガニックコットンのようにその素材や製造工程で人、地域環境などに配慮することは、ファッションメーカーやそれを扱う店舗にとって今後原則的なの社会的責任になるだろう。 (2009年11月)

Writing: owadajunko

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